相談者様が妊娠判定に胸を躍らせたのもつかの間、おなかの中で小さな命が消えてしまうことは実は珍しいことではありません。
「仕事で長時間立ちっぱなしだった」
流産後、妊娠中の行動の何かが流産を引き起こす原因になったのではないか、と考えて自分を責める人は少なくありません。しかし、流産は全妊娠のうちの約15%に起こるもので、さらにその原因の多くは受精卵の染色体異常。どんなに気をつけていても防ぐことのできないものです。
平均して約15%といわれる流産率ですが、その確率は妊娠年齢が上がるほどに高まります。
「30代後半では約3割弱、40歳前後になると約4割の妊娠が、流産という結果で終わります。年齢とともに卵子が老化することがいちばんの原因で、受精しても染色体異常のために途中で成長が止まってしまうことが多くなるのです。もちろんそうした現実を知っていても、実際に流産と診断されると悲しいし、精神的な負担ははかりしれません。どこかに原因を求めたくなる気持ちも非常によくわかります。ただ、受精卵の染色体異常は偶発的なもの。次回の妊娠には影響しません。自分を責めず、次の妊娠へと切り替えていけるといいですね」
『原因不明の「不育症」も多い』
妊娠はするものの、2回以上の連続する流産、または死産などで赤ちゃんを得られない状態を、不育症と呼びます。年齢はひとつの大きなリスク因子ですが、それ以外の原因については検査をしても原因が明らかにならない場合も多いといいます。
「不育症の治療は、リスク因子がどのくらいあるかを検査することから始まります。糖尿病や甲状腺機能の異常、子宮形態異常、また血液がかたまりやすくなる血液凝固異常などは、流産、早産のリスクを高めることがわかっていて、不育症のリスク因子とされます。ただし、こうした検査をしても原因がわからない人は、約半数にも上ります。その場合、おそらくは受精卵の染色体異常が原因での流産がたまたま続いてしまったと考えられ、その頻度は年齢と共に上昇します」
『2回連続して流産をした場合は精密検査を』
実際、2回連続で流産をした人も、3回目以降の妊娠で約80%が出産に至っているというデータがあります。
「一般的には連続して2回以上の流産、死産がある場合に検査を行います。3回の流産があれば、必ず検査を受けることをおすすめします。
不育症は、検査で明らかになったリスク因子に合わせて治療を行います。
「たとえば血液凝固系の異常があって、胎児や胎盤への血流が滞りやすくなることが流産の原因となるケースがあります。
そうした場合は、痛み止めとしても使われる抗凝固薬であるアスピリンを低容量内服することで、血液をサラサラにし、流産を予防します。アスピリンを飲み始めるタイミングは、医師によっても見解がわかれますが、着床期前後に飲み始めるのが一般的です。妊娠中もしばらく継続して内服を続け、産科医師の判断で終了します」
糖尿病や甲状腺機能異常などの内分泌異常がある場合も、原因となる病気の治療を行い、症状をコントロールすることで流産を防ぐことができます。
子宮形態異常がある場合は、手術を行うか、経過観察をしながら妊娠をめざすかを検討します。手術を行う場合も、体への負担の少ない内視鏡手術で行うことが増えています。
また、夫婦のどちらかに染色体の一部が入れ替わっている「転座」がある場合も、流産の確率が高くなることがわかっています。この場合は、受精卵の着床前診断によって染色体の異常がないものを戻す方法があります。
『不育症と診断されても約8割は出産できる』
不育症と診断されても、適切な治療を行うことで約8割の方が赤ちゃんを出産するに至っているというデータがあります。
「流産の経験があると、また今回も悲しい結果になるかもしれないと、どうしても不安が強くなってしまいますね。でも、妊娠中のストレスはできるだけ減らしたいものです。
流産を恐れすぎず、心穏やかに過ごすことや体質改善することも不育症の対策として有効といえます。不安を抱え込まず、医師やカウンセラー、パートナーに吐き出すことも大事。「検査で原因がわかって治療を受けている方だけでなく、流産回数が2回に満たず診断を受けてない方、検査をしても原因がわからない方も、次回の妊娠時には代替医療によって不安を取り除くことや体質改善が重要です」
『漢方ってなに?』
1 心身一如(しんしんいちにょ)
心身一如・・この100年、目覚しい進歩とともに病気の治療に大きく貢献してきた現代の医療は、今後さらに標的を絞った専門的かつ細分化された治療が主流になっていくと思われます。
一方、漢方では心(精神活動や感情など)と体(内臓機能など)は切っても切り離せない密接な関係にあるものと考え、一つのものという意味で“心身一如”と捉え、治療するのが特徴です。
内分泌機能の乱れが、精神活動の乱れと密接に関係している女性の病気に、漢方治療が適しているといわれるのも、このような考えがベースにあるからだろうと思われます。