慢性子宮内膜炎は、細菌感染等による子宮内膜間質への形質細胞(CD138陽性細胞)の浸潤を特徴とした疾患です。
形質細胞とは、骨髄で作られる白血球の一種であるBリンパ球(B細胞)が成熟することによってできる細胞です。正常な状態では、細菌やウイルスが体内に浸入すると、一部のBリンパ球が形質細胞に変化します。
慢性子宮内膜炎の原因は、細菌感染の可能性があるため、子宮内膜基底層に形質細胞が複数存在することが確認できれば、細菌感染によって内膜が炎症を起こしていることが分かります。
では実際にエビデンスを見てみると
Immun Inflamm Dis. 2020. DOI: 10.1002/iid3.354
単施設でおこなわれた後方視的研究です。
2018年6月から2020年2月まで子宮内膜サンプリングを受けた101名の不妊女性のうち、ERA検査と慢性子宮内膜炎精査のためのCD138免疫組織染色を実施した88人を対象としました。募被験者は以下の3群に分けました。
①事前にCD138免疫組織染色を実施し慢性子宮内膜炎なしの33例(非慢性子宮内膜炎群)
②ERA検査時に未治療の慢性子宮内膜炎があった19例(慢性子宮内膜炎群)
③事前にCD138免疫組織染色を実施し慢性子宮内膜炎を認め治療後にERA検査実施した36例(慢性子宮内膜炎治癒群)。
慢性子宮内膜炎の診断は、ランダムに10部位を選択し、400倍の倍率で視野あたり5個以上のCD138陽性形質細胞が存在することと定義しました。
結果:
①非慢性子宮内膜炎群、②慢性子宮内膜炎群、③慢性子宮内膜炎治癒群では、CD138陽性細胞数はそれぞれ0.7±1.0、28.5±30.4、1.3±1.3でした(p<0.001)。
ERA検査にて「Receptive」の割合は①非慢性子宮内膜炎群では57.6%(19名)、③慢性子宮内膜炎治癒群では50.0%(18名)でしたが、②慢性子宮内膜炎群では15.8%(3名)にとどまり、他の2つの群に比べて有意に低い結果となりました(p=0.009)。
①非慢性子宮内膜炎群、②慢性子宮内膜炎群、③慢性子宮内膜炎治癒群でERA検査後の初回の個別化胚移植の臨床妊娠率は、それぞれ77.8%(21/27)、22.2%(4/18)、51.7%(15/29)でした(p<0.001)。
慢性子宮内膜炎の存在は個々のWOI(ERA結果)に影響を及ぼし、胚内膜非同期を引き起こしている可能性が示唆されます。
ERA検査の前にCD138慢性子宮内膜炎検査は実施することを推奨する結果となり多くのクリニックがこのような結果からERA検査の前にCD138慢性子宮内膜炎検査を勧めています。